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常識と非常識の波を乗りこなす

少し時間が空いた。

これは、 バーンアウトとおもてなしの続き。

少し興味が出て、Unreasonable Hospitality を読んでみた。


そしてある面期待通り、TED Talkで語っているような話というのはかなり部分的な抽出で、もう少し斟酌したい意図や経緯があるように思った。(以下書籍の内容の一部ネタバレあり、動画やWebサイトで有名な内容かもしれないけれど)




そもそもの両親との関係やそれをきっかけとしたレストランでのサービスの仕方に対する自身の考え、そしてNew York Timesの三つ星レストランから続いて世界トップ50のレストランの50位、そこから徐々に順位を上げて、5位、4位、3位、と徐々にトップに向かっていく。

その向かっていく毎年の積み重ねの中で、トップ50のところはどこも、当たり前のことは当たり前にやっている、それを超える必要がある、と考えた上でのUnreasonableなHospitalityを提供するという話。


動画の中では、超高級レストランでお客様が望まれていた$2のホットドッグを提供した話や、飛行機が欠便になってビーチに行く予定がなくなってしまったお客さまのために砂やパラソル、小さなプールを用意してプライベートビーチ気分を味わってもらった話、雪を初めてみた家族のために食事後に雪で遊べるように車を手配した話などが例として上がっていたけれど、それは正直なところ、ドンドンと慣れてきた結果としての最終的な着地であって、より初期のUnreasonableさを追求するエピソードこそ、共感を生むような話だと思った。


予約しているお客様の名前を覚え、可能なら顔写真も探し、入店したらお客様が名乗らずとも認知してお出迎えする。

上着も預ける時に番号札のようなもので管理するのではなく、利用する席と紐づけたような配置でコートを管理して、帰るタイミングになった時にはそれを内部で連携して、自然にお渡しできるようにする。

シェフズテーブル(調理しているところが見える特等席)を用意すると、誰かがVIPでそれ以外はVIPに比べると重要ではない、ということを示す形になってしまうので、どの席からも調理の様子が見えるような構造にしたという話もあった。 [^1]


絶対にできないことではないけど、大変だから普通はやらない。

けど、それをやれば人と人とがつながっている感じ、まさにおもてなしを提供できるという感覚からの試みで、確かにこれはしてもらえると自分を認識してもらえていると思ってサービスを受ける側からすると嬉しいだろうと自分も思った。


さらに気に入ったエピソードは、会計時の話。

伝票を渡してお客様に支払いを求めるのは、いろいろな温かい体験を現実にフッと戻す瞬間、これをどうにかできないか、ということで、食事後のデザートのタイミングになったらデザートと「ボトルまるまる飲み放題のコニャック」と伝票を持ってきて、気が済むまで楽しんだらお会計に進んでください、という心配りをしたという話。


これは思わずどういう話かと検索してしまった。

どうやら Flatiron Lounge というラウンジに、メインの食事が終わると案内されるらしい。  [^2]

そして、コニャックと一口サイズのデザートが提供される。しかもボトルで。好きなだけ飲んで良いと案内される。(実際には、食事も結構な量が出るし、そんなにたくさん飲む人はいない想定だけど、それでも、いくらでも心ゆくまで楽しんでほしいという演出ができていると思う)


ある食事のレビュー記事でも次のような形で触れられている。


>As if taking a peak behind the curtains and being treated to cocktails wasn’t enough, The Astronomer and I were led to the Flatiron Lounge to enjoy our mignardise and a digestif. We were each poured a splash of the Guillon-Painturaud Cognac V.S.O.P. and invited to drink as much as we pleased. A jar full of granola was presented to us on the way out. I told you the chef had a thing for granola. [^3]


こういう、どうしたらつながりを保って良いサービスを提供できるか、を考えたという話だったのだなと思うと、世界でトップのレストランにできた話も頷けるし、すごい情熱だなと思う。

他にも学べたことが多く、読めて良かった作品だった。



そこで話を戻して燃え尽きとこの常軌を逸したおもてなし。

常軌を逸したおもてなし、それ自体を考えることは多分、とても、楽しい。そしてそれで実際に喜んでもらえたら、とても、気持ちがいいと思う。


一方で、それは並の努力ではできず、仕事に対して深い情熱を注ぎ込まないと達成がしづらいことのようにも思う。


そうすると、それは「トータル・ワーク(≒仕事中心主義的な発想)」に陥ってしまい、うまくおもてなしを提供できない時に強い消耗感や、自分は何もできていないという個人的達成感の低下につながるのだろうと思う。


特に、今回のようなケースでWill(著者)は経営側だったし、目標を自分で設定して、達成すれば次へ、達成すれば次へ、と徐々に高みを目指していたけれど、その下で働くメンバーはどうだったのだろう、ということについ考えがいってしまう。

多分、うまくいっている時は気持ちよく働ける、でも、いつもうまくいくわけがなく、その時に気付くと燃え尽きているというのは大いにあり得そうだと思った。


仕事から得る自己効力感が気持ちよく、生きている実感をもたらしてくれる瞬間はきっとあるし、それが楽しいということもきっとある。

そういう瞬間を人生の中で持ってもいいと思うけど、一方で、それをずっと維持する必要はないんだ、色々と経験できて良かったねそろそろUnreasonableからResonableに移るフェーズ(というよりは波、の方が近いかな)だ、といった形でセルフコントロールして、常識的に(燃え尽きないように)働くときと常軌を逸する時とを切り替えて、仮に常識的な方(=トータルワークではない方)に自分のギアを戻しても、その自分をそれぞれが好いていられるような社会にできるといいのだろうな、というのが2つの書籍を通して感じた、今時点の感想となりそう。

果たしてそんなことはできるのだろうか、という点はあるけど、少なくとも、自分に対していつでも仕事で輝きたいといったような過度な期待は防げるのではないかな。


おしまい。



[^1]: Eleven Madison Park "Tour" at Menton - Tiny Urban Kitchen https://tinyurbankitchen.com/eleven-madison-park-tour-at-menton/

[^2]: 食事のテーブルより小さいテーブルに座り心地の良さそうな椅子、という出立ち Eleven Madison Park | Manhattan | Restaurants https://www.nyctourism.com/restaurants/eleven-madison-park/

[^3]: 該当箇所は記事内後半 Eleven Madison Park Review: Roasted Duck for Two, Foie Gras, Liquid Nitrogen Cocktails | Gastronomy https://gastronomyblog.com/2011/07/15/eleven-madison-park-new-york-city/